This Archive : 2012年09月
人間香
2012.09.08 *Sat
浴槽やプールで両腕だけ深く浸すと、水にうもれた気がして気持ちいい。それと同じように文字の中にうもれたくなって、今日はいくつか本を買った。
家に帰り、浴槽の蓋を開けるときの小躍りした心持ちで一番気になっていた本を開くと、なにか、見開きの中心にサインペンで大きく著者の名前が書いてある。あわせて左下には印鑑と落書きも付いている。
これはもしかしてサイン本というものか。
わたしの胸は高鳴りました。
というふうには全然いきませんでした。
好きな著者のものであろうと、意外にも気持ちは喜びの呼び水の方へ素直に流れないものですね。あっと思ったのは、見知らぬ人による肉の文字の現れによって冒頭の見開きに渦ができたこと。それによって水が先に流れなくなっていたこと。
小さくも純粋な溜まり。不思議と厚みがある頁。多分抱き甲斐もあってしっかり質感を伴っているのだろうけれど、わたしが抱いていいのかは躊躇せざるを得ない空間。ここにある確かな肉とあたたかな誰かの残滓。
ほんとう、直筆で書いた小説なんか簡単に人を殺せちゃうね。と思いながら夕暮れに買った本をまだ開けないでいる夜です。
家に帰り、浴槽の蓋を開けるときの小躍りした心持ちで一番気になっていた本を開くと、なにか、見開きの中心にサインペンで大きく著者の名前が書いてある。あわせて左下には印鑑と落書きも付いている。
これはもしかしてサイン本というものか。
わたしの胸は高鳴りました。
というふうには全然いきませんでした。
好きな著者のものであろうと、意外にも気持ちは喜びの呼び水の方へ素直に流れないものですね。あっと思ったのは、見知らぬ人による肉の文字の現れによって冒頭の見開きに渦ができたこと。それによって水が先に流れなくなっていたこと。
小さくも純粋な溜まり。不思議と厚みがある頁。多分抱き甲斐もあってしっかり質感を伴っているのだろうけれど、わたしが抱いていいのかは躊躇せざるを得ない空間。ここにある確かな肉とあたたかな誰かの残滓。
ほんとう、直筆で書いた小説なんか簡単に人を殺せちゃうね。と思いながら夕暮れに買った本をまだ開けないでいる夜です。
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